化膿性屈筋腱炎(かのうせいくっきんけんえん)は、手指の屈筋腱(指を曲げるための筋肉の腱)およびその腱鞘に細菌感染が起こる疾患です。細菌感染によって腱鞘に炎症が発生し、指が痛み、腫れ、動かしにくくなります。迅速に治療しないと、腱や周囲の組織が損傷し、指の機能が損なわれることがあります。
化膿性屈筋腱炎の概要
- 原因: 化膿性屈筋腱炎は、主に外傷による細菌感染が原因です。例えば、指に刺し傷や切り傷ができた際に細菌が侵入することで感染が発生します。動物やヒトによる咬創(噛まれた時)に感染リスクが高いとも言われています。一般的な原因菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や連鎖球菌(Streptococcus)です。また、糖尿病などの免疫力が低下している人では、感染のリスクが高まります。
症状
- 指が軽く屈曲した状態で固定される(半屈位):
- 感染が進行すると、指が自然と軽く曲がった状態(半屈位)で固定されることがあります。これは、腱鞘内の炎症と腫れによるものです。
- 腫れが手指全体に広がる(指全体の腫脹):
- 指全体が腫れ、特に指の掌側(手のひら側)に顕著に見られます。腫れは、炎症が腱鞘を含む組織全体に広がっていることを示しています。
- 手のひら側での圧痛(掌側の圧痛):
- 指の掌側(手のひら側)に沿って強い圧痛が現れます。これは、感染が屈筋腱の周囲に炎症を引き起こしているためです。
- 指を伸ばそうとすると強い痛みを感じる(伸展時の痛み):
- 指を無理に伸ばそうとすると激しい痛みが生じます。炎症によって腱が引っ張られるため、指を伸ばすことが非常に困難で、痛みが伴います。
これらの症状をまとめてKanavel徴候(カナベル徴候)と呼ばれ、化膿性屈筋腱炎の診断に役立ちます。
治療法
化膿性屈筋腱炎は、迅速な治療が必要な感染症です。治療が遅れると、指の永久的な損傷や手術が必要になることがあります。
- 抗生物質療法:
- 感染を起こしている細菌に対して抗生物質を投与します。早期の軽度の感染であれば、抗生物質の内服または静脈注射によって効果的に治療できることがあります。
- 感染が進行している場合や重症例では、広範囲にカバーする抗生物質が使われることがあり、感染原因菌を特定するために培養検査を行うこともあります。
- 外科的治療:
- 切開排膿: 感染が進行して膿が溜まっている場合、手術によって腱鞘を切開し、膿を排出します。これにより感染の広がりを防ぎ、圧力を軽減することができます。
- デブリードマン(感染組織の除去): 感染した壊死組織を取り除く手術を行うことがあります。特に重度の感染や膿の広がりがある場合に行われます。
- 手術後は、感染の完全な除去と再発予防のために、術後に引き続き抗生物質の投与が必要です。
- リハビリテーション: 手術後や炎症が治まった後は、リハビリが必要となる場合があります。指の可動域を取り戻し、筋力を回復させるためのリハビリテーションを行うことで、機能障害を防ぎます。
日常の予防策と注意点
- 早期治療: 化膿性屈筋腱炎は、早期の診断と治療が重要です。特に、指に外傷を負った際に早期に症状が現れた場合は、すぐに医師の診察を受けることが推奨されます。
- 清潔な手指のケア: 外傷を受けた場合は、早めに洗浄し、適切な処置を行うことが感染予防に有効です。
- 免疫力の管理: 糖尿病などの免疫が低下しやすい状態にある人は、感染予防を心がけることが重要です。
まとめ
化膿性屈筋腱炎は、早期発見と適切な治療が鍵となる病気です。治療が遅れると、手術が必要になるだけでなく、指の機能に深刻な影響を及ぼす可能性があります。したがって、指に痛みや腫れがある場合は、速やかに医師に相談することが重要です。