ギヨン管症候群(Guyon's canal syndrome)は、手首にある尺骨神経ギヨン管という部分で圧迫されることで、手や指にしびれや痛み、筋力低下を引き起こす疾患です。ギヨン管は手首の小指側に位置するトンネル状の構造で、尺骨神経と尺骨動脈がこの管を通っています。

ギヨン管症候群の概要

尺骨神経は、首から腕を通り、手首を経由して小指と薬指の一部に感覚を供給し、手の一部の筋肉を制御しています。ギヨン管は、この尺骨神経が手首を通過する場所の一つです。ギヨン管症候群は、尺骨神経がこの管の中で圧迫されることで発生し、手や指に感覚障害や運動機能の問題を引き起こします。

ギヨン管症候群の原因

ギヨン管症候群の主な原因には、次のようなものがあります。

  1. 長時間の圧迫:
    • 手首を使った動作(自転車のハンドルを強く握るなど)や手首を長時間圧迫する動作が原因となります。
  2. 外傷:
    • 手首への打撲や転倒による外傷が、ギヨン管内で尺骨神経を圧迫することがあります。
  3. 腫瘍や嚢胞:
    • ギヨン管の内部や近くに腫瘍や嚢胞(液体がたまった袋状のもの)ができ、神経を圧迫することがあります。
  4. 繰り返しの動作:
    • 手首や小指側に負担をかける動作(タイピング、スポーツなど)を繰り返すことで、神経が圧迫されやすくなります。

ギヨン管症候群の症状

ギヨン管症候群の症状は、尺骨神経の圧迫によって引き起こされ、以下のような症状が現れます。

  • 手の小指と薬指のしびれや痛み: 特に小指側に感覚の異常(しびれや痛み)が現れることが多いです。痛みは手首や手全体に広がることもあります。
  • 握力の低下: 小指や薬指を使う際に筋力が低下し、握力が弱くなります。手の細かい動作(物を持つ、ピンセットを使うなど)が困難になります。
  • 手の筋肉の萎縮: 長期間の圧迫が続くと、手の筋肉が萎縮(やせる)し、手の形状が変わることがあります。
  • 動作時の不快感: 手首を動かす際に不快感や痛みが強くなります。

ギヨン管症候群の診断

ギヨン管症候群の診断は、患者の症状、身体診察、および必要に応じた画像検査や神経伝導検査によって行われます。

  1. 問診と身体診察:
    • 患者の症状を聞き取り、手や指の感覚や筋力、手首の可動域を確認します。尺骨神経の圧迫が疑われる箇所を触診して、痛みやしびれが増強するかを確認します。
  2. 神経伝導検査(NCS):
    • 尺骨神経の伝導速度を測定し、どの部分で神経が圧迫されているかを特定するために行います。神経の伝導速度が遅くなっている箇所が圧迫部分と判断されます。
  3. 画像診断:
    • MRIや超音波検査を使って、ギヨン管内での神経の圧迫や、腫瘍、嚢胞などの異常を確認します。

ギヨン管症候群の治療法

ギヨン管症候群の治療は、症状の重さや原因によって異なります。軽度の場合は保存療法が選ばれますが、重度の場合や長期間改善が見られない場合には手術が検討されます。

1. 保存療法(非手術的治療)

  • 安静と活動制限:
    • 症状を引き起こしている動作や圧迫を避け、手首を安静に保つことが重要です。手首を長時間使用する作業や圧迫を避けることで、神経への負担を軽減します。
  • サポーターや装具の使用:
    • 手首を固定するサポーターや装具を装着して、圧迫や動きを制限し、神経の回復を促します。
  • 消炎鎮痛薬(NSAIDs):
    • 痛みや炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(例:イブプロフェン)を服用します。
  • 注射:
    • 手首の炎症や腫れを軽減するために、ステロイド注射やハイドロリリースが行われることがあります。これにより一時的に症状が軽減されることがありますが、長期的な効果は個人差があります。

2. 物理療法

理学療法士の指導のもとで、手首や前腕の筋力を強化し、柔軟性を高めるリハビリが行われます。手首の動きを改善し、再発を防ぐためのストレッチや運動が含まれます。

3. 手術療法

保存療法で症状が改善しない場合や、神経が重度に圧迫されている場合、手術が検討されます。

  • ギヨン管の開放術:
    • 圧迫された尺骨神経を解放するために、ギヨン管の一部を切開して神経の通り道を広げる手術です。これにより、神経への圧迫を取り除き、症状を改善します。
  • 腫瘍や嚢胞の除去:
    • 圧迫の原因が腫瘍や嚢胞の場合、これらを取り除く手術が行われます。

手術後は、リハビリを通じて手首や手の動きを回復させることが重要です。

ギヨン管症候群の予防

  • 手首への過剰な圧迫を避ける:
    • 長時間手首に負担をかける作業や姿勢(例えば、手首を曲げた状態でのタイピングや自転車のハンドルを強く握る動作)を避けることが重要です。
  • 適切な休息:
    • 手首に負担がかかる作業を続ける場合は、適度に休憩を取り、手首をリラックスさせることが効果的です。
  • 筋力トレーニング:
    • 前腕や手首の筋肉を強化する運動を行うことで、神経への負担を軽減し、症状を予防できます。

まとめ

ギヨン管症候群は、手首の小指側で尺骨神経が圧迫されることで生じる疾患で、手や指にしびれや痛み、筋力低下を引き起こします。保存療法が多くの場合有効ですが、改善が見られない場合は手術が必要になることもあります。早期に診断し、適切な治療と予防策を取ることで、症状の進行を防ぐことができます。