野球肘(やきゅうひじ)は、野球の投球動作を繰り返すことで、肘に過度の負担がかかり、肘関節周辺の靭帯、腱、骨、神経などに損傷が生じる障害の総称です。特に、ピッチャーやキャッチャーのように、頻繁に強い投球動作を行う選手に多く見られます。野球肘は成長期の子どもや青年に多く発生しますが、大人にも起こることがあります。

野球肘は、肘の内側、外側、さらには後方に痛みが発生することがあり、重症化すると骨や軟骨の損傷、靭帯損傷を引き起こすことがあります。早期の発見と適切な治療が重要です。

野球肘の主なタイプ

  1. 内側型野球肘: 最も一般的なタイプで、肘の内側の靭帯(内側側副靱帯)や筋肉に負担がかかり、炎症や損傷が生じます。内側型野球肘は、肘を投げる動作で強く引っ張る力が働くことで発生します。
  2. 外側型野球肘: 肘の外側部分に圧迫がかかり、軟骨が損傷する状態です。長期間の過度な投球が原因で、外側の骨や軟骨が摩耗し、骨軟骨炎(オステオコンドラル損傷)を引き起こすことがあります。
  3. 後方型野球肘: 肘を曲げる際に、肘の後ろの部分に衝突する力が働くことで、後方に痛みが生じるタイプです。投球動作の最終段階で肘が強く伸ばされることで発生します。

野球肘の原因

  1. 過度な投球: 野球肘の最も大きな原因は、投球数の増加や過度な投球です。特に、休息を取らずに連続して投球を行うことが肘に過度の負担をかけます。
  2. 投球フォームの問題: 不適切な投球フォームや無理な力を使った投球が、肘の特定の部位に過剰な負荷をかけ、損傷の原因となります。
  3. 成長期の骨の未成熟: 成長期の子どもや若年層では、骨や関節が完全に成熟していないため、過度なストレスを受けると骨や軟骨にダメージを与えることがあります。

野球肘の症状

  • 肘の痛み: 投球時やその後に肘の内側や外側、後方に痛みが生じます。初期段階では、痛みが一時的であっても、進行すると痛みが持続するようになります。
  • 肘の腫れ: 肘関節が腫れることがあり、痛みとともに腫れが悪化することがあります。
  • 肘の可動域制限: 肘の動きが制限され、特に肘を完全に伸ばしたり曲げたりするのが難しくなることがあります。
  • 肘の「引っかかり」感や不安定感: 骨や軟骨が損傷している場合、肘を動かすときに引っかかりや不安定感を感じることがあります。

野球肘の診断

診断は、症状の確認と身体検査、必要に応じて以下の検査が行われます。

  • X線: 骨や軟骨の損傷を確認するために行われます。特に成長期の子どもでは、骨の変化を早期に発見できます。
  • MRIや超音波検査: 軟部組織(靭帯や腱など)の損傷を確認するために行われます。骨軟骨炎などの詳細な損傷状態を確認できます。

野球肘の治療法

治療は、損傷の程度や患者の年齢、投球動作への依存度に応じて異なります。軽度の症状では保存療法(手術を伴わない治療)が推奨されますが、重症化した場合や骨や軟骨が損傷している場合には手術が必要となることがあります。

1. 保存療法

  • 休息と活動制限: 肘に負担をかけないよう、投球を中止し、肘を休めることが最も重要です。特に、成長期の子どもでは十分な休息が必要です。
  • アイシング: 痛みや炎症を和らげるために、肘を冷やすことが有効です。
  • 鎮痛剤・抗炎症薬: 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用して、痛みや炎症を抑えます。
  • 理学療法(リハビリテーション): 肘の柔軟性と筋力を回復させるためのリハビリが行われます。肩や肘周辺の筋肉を強化し、再発を防ぐためのトレーニングが含まれます。
  • 投球フォームの修正: 専門家の指導のもと、適切な投球フォームを身につけることが重要です。肘にかかる負担を減らすためにフォームを改善することで、再発を防止します。

2. 手術療法

保存療法で症状が改善しない場合や、骨や靭帯、軟骨が損傷している場合には手術が必要になることがあります。

  • 靭帯修復術(トミー・ジョン手術): 内側側副靱帯の損傷が重度である場合、靭帯の再建手術が行われます。トミー・ジョン手術では、損傷した靭帯を修復または新しい靭帯を移植して肘の安定性を回復します。
  • 骨軟骨片の除去: 骨軟骨炎が進行している場合、損傷した軟骨や骨の断片を除去する手術が行われます。

野球肘の予後と予防

  • 予後: 早期に治療を開始すれば、野球肘の症状は通常改善しますが、重度の損傷や手術が必要な場合、完全な回復までには数ヶ月から1年程度かかることがあります。リハビリを通じて徐々に投球に復帰することが重要です。
  • 予防: 野球肘の予防には、以下の点が重要です。
    • 適切な休息を取り、投球数を制限する
    • 投球フォームを正しく習得し、肘に過度な負担をかけないようにする
    • 肘や肩の筋力を定期的にトレーニングし、柔軟性を維持する
    • 成長期の選手には特に慎重な投球管理を行い、過度な負荷を避ける

野球肘は、早期に適切な対処をすることで回復が可能です。痛みや違和感が続く場合は、早めに専門医に相談し、適切な治療を受けることが重要です。