肩峰下インピンジメント症候群(けんぽうかインピンジメントしょうこうぐん)は、肩の動きに伴って肩峰(肩甲骨の一部)と上腕骨の間にある腱や筋肉が圧迫されることによって発生する障害です。主に、肩を挙げる動作や腕を前方に伸ばす動作で痛みが生じやすく、特に肩の回旋筋(ローテーターカフ)や肩峰下滑液包が炎症を起こすことで症状が悪化します。
この症候群は、肩の使いすぎや加齢による組織の変性が原因となることが多く、特にスポーツ選手や手を使う仕事に従事している人に見られます。
肩峰下インピンジメント症候群の主な原因
- 肩の過度な使用: 繰り返し肩を使う動作、特に腕を上げる動作が多いスポーツ(野球、テニス、バレーボールなど)や仕事(建設作業やペンキ塗りなど)により、肩の筋肉や腱が過度に摩耗し、炎症が起こりやすくなります。
- 肩関節の構造的な異常: 肩峰の形状や、大きな骨棘(こつきょく:骨の突起)があると、腱や筋肉が物理的に圧迫されやすくなります。
- 加齢と組織の変性: 加齢に伴い、肩の腱や筋肉が弱くなり、炎症や摩耗が起こりやすくなります。肩峰下滑液包が炎症を起こし、動作時に痛みを引き起こすこともあります。
肩峰下インピンジメント症候群の症状
- 肩の痛み: 腕を挙げたり、肩を動かす際に痛みが生じます。特に、腕を90度以上上げた時に強い痛みが出やすく、夜間に痛みが悪化することもあります。
- 肩の可動域の制限: 痛みが続くと、肩を動かす範囲が狭くなり、日常の動作(髪を洗う、物を持ち上げるなど)が困難になることがあります。
- 肩の弱さ: 炎症や痛みによって肩の筋力が低下し、重い物を持ち上げるのが難しくなったり、肩が不安定に感じることがあります。
肩峰下インピンジメント症候群の治療法
治療は、症状の程度や患者の活動レベルによって異なります。保存療法(手術を伴わない治療)と手術療法が主に用いられます。
1. 保存療法
- 安静とアイシング: 肩の炎症を抑えるために、肩を休ませ、定期的にアイシングを行います。過度に肩を動かさないようにし、痛みを悪化させないことが重要です。
- 鎮痛剤・抗炎症薬: 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や鎮痛剤を使用して、痛みや炎症を和らげます。
- 理学療法(リハビリテーション): 専門の理学療法士によるリハビリが重要です。肩の可動域を回復し、筋力を強化するエクササイズが行われます。特に、肩の安定性を高める筋力トレーニングが重要です。
- ステロイド注射: 炎症が強い場合、肩にステロイドを注射して炎症を抑えることがあります。短期的に痛みを軽減させる効果が期待されますが、根本的な治療にはならないことが多いです。
2. 手術療法
保存療法で改善しない場合や、肩の痛みが重度の場合には、手術が検討されることがあります。
- 関節鏡手術: 小さな切開を行い、関節鏡を用いて肩峰の下で圧迫している部分(骨棘や変性した組織)を削ったり、滑液包の炎症部分を取り除く手術です。この手術により、肩関節の空間を広げて腱や筋肉の圧迫を軽減します。
- 肩峰形成術: 肩峰の形を整える手術です。骨棘が原因で腱が圧迫されている場合には、骨を削って圧迫を解消します。
肩峰下インピンジメント症候群の予後と予防
- 予後: 保存療法で改善するケースが多く、リハビリによって肩の機能が回復することが期待されます。手術を受けた場合でも、リハビリを適切に行うことで、通常は数ヶ月以内に肩の動きが回復します。
- 予防: 肩の柔軟性を保つことと、肩周りの筋力を強化することが再発防止に役立ちます。特に、肩を過度に使うスポーツや仕事に従事している場合は、定期的なストレッチや筋力トレーニングを行うことが重要です。
肩の痛みが続く場合や、肩を動かす際に違和感や不快感がある場合は、早期に専門医の診察を受けることが大切です。早期発見と治療が、症状の悪化を防ぎ、日常生活に支障をきたさないための鍵となります。