上腕二頭筋長頭腱断裂は、上腕二頭筋(いわゆる「力こぶ」を作る筋肉)の腱のうち、肩関節に付着する「長頭腱」が断裂する状態を指します。上腕二頭筋には「長頭腱」と「短頭腱」があり、長頭腱は肩の動きに大きく関与しています。この腱が断裂すると、肩や腕に様々な症状が現れます。
主な原因
- 加齢と劣化: 上腕二頭筋の腱は年齢とともに摩耗しやすくなります。加齢に伴い、腱の強度が低下し、断裂のリスクが高まります。
- 反復的な使用: 肩や腕を繰り返し酷使するスポーツ(野球、テニス、ウエイトリフティングなど)や職業(建設作業など)によって腱に負担がかかり、断裂の原因となります。
- 外傷: 転倒や突然の重い物を持ち上げる動作で腱に大きな負荷がかかり、断裂することがあります。
上腕二頭筋長頭腱断裂の症状
- 突然の鋭い痛み: 上腕の前面や肩に鋭い痛みが生じることがあります。
- 力こぶの変形: 長頭腱が断裂すると、筋肉が下に引き寄せられて、上腕部に目立つ「力こぶ」が形成されます。これを「ポパイサイン(Popeye Sign)」と呼びます。
- 筋力低下: 腕を曲げる動作や物を持ち上げる力が弱くなりますが、短頭腱が機能しているため、完全に腕を動かせなくなることはありません。
- 肩の痛み: 特に肩の前面に痛みや不快感を感じることがあります。
診断
- MRIや超音波検査: 腱の状態をより詳細に確認するために用いられます。
- X線: 骨に異常がないか確認するために行われることがありますが、腱自体はX線では映りません。
治療法
上腕二頭筋長頭腱断裂は、損傷の程度や患者の活動レベルによって、保存療法(手術を伴わない治療)と手術療法のどちらかが選択されます。
1. 保存療法
- 安静とアイシング: 初期段階では痛みや炎症を抑えるために肩や腕を休め、アイシングを行います。
- 鎮痛剤・抗炎症剤: 痛みや炎症を軽減するために非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用します。
- リハビリテーション: 腕の筋力と可動域を回復するために、理学療法士によるリハビリが行われます。保存療法の場合、他の筋肉や腱を強化し、機能を補うことが目指されます。
保存療法は、特に高齢者や、日常生活で重いものを持ち上げる必要がない場合には適しており、短頭腱が残っているために腕の基本的な機能は維持されます。
2. 手術療法
より若い患者やスポーツ選手など、腕の機能を完全に回復させる必要がある場合には、手術が検討されます。
- 腱の修復: 手術で断裂した腱を修復し、再び肩に付着させることが行われます。関節鏡を使用することで、侵襲が少ない方法で手術を行うことが可能です。
- リハビリテーション: 手術後はリハビリが非常に重要です。徐々に腕の可動域と筋力を取り戻すために、数ヶ月間のリハビリが必要となります。
予後と回復
- 保存療法の場合: 腕の基本的な機能は短頭腱によって維持されますが、重いものを持ち上げたり、腕を高く上げる動作には力が弱くなる可能性があります。リハビリを通じて他の筋肉を強化することで、日常生活に支障なく過ごすことができるケースが多いです。
- 手術療法の場合: 腱が修復されれば、元の筋力と可動域を取り戻すことが可能です。しかし、完全な回復には数ヶ月から1年程度かかる場合があり、リハビリが重要です。
予防
- 筋力トレーニング: 肩や腕の筋肉を強化することで、腱にかかる負担を減らすことができます。特に肩周辺の筋肉(ローテーターカフなど)の強化が重要です。
- 適切なウォームアップ: スポーツや重労働を行う前には、ウォームアップを十分に行い、腱や筋肉の準備をすることが大切です。
- 急激な負荷を避ける: 突然重いものを持ち上げたり、急激な動作を避けることで腱にかかる負荷を減らすことができます。
上腕二頭筋長頭腱断裂は、完全断裂でも日常生活に大きな支障をきたすことは少ないですが、痛みや筋力低下を感じる場合は早めに医師に相談することが重要です。